「X-mas」という名のウイルス。シングルは聖夜を生き残れるのか!?

今宵は聖夜。どれだけの仲間が生き残っているんだろう…戦っているんだろう…連絡も途絶えたままだ…。話に聞いていた通りだった…。街の至る所に、イルミネーション光る街路に、オシャレなレストランに、巨大デパート内に、スイーツ屋に、ワインバー、カラオケ、ボーリング場に奴らがいる。何処を覗いても奴らがいる。群れを成して奴らが押し掛けてきている…。何処に行っても奴らがいる。あれは「X-mas」と呼ばれるウイルスに侵された亡者達。生ける屍。カップルである事、恋人がいる安心感と幸福感から、もはや意識が飛ぶほどに朦朧とした表情を浮かべて街を彷徨っている。いつもより緩慢な動作で聖夜の街を闊歩している。そして奴らは俺達「シングル」を食い殺す。同じウイルスに侵されていない者を見つける能力が奴らにはあるんだろうか。

なにっ!?あれは仕事帰りの疲れた男性じゃないのか!?ダメだ!その通りには奴らが沢山いるんだ!そんな疲労を浮かべた顔でそんな店に入っちゃダメだ!一瞬で食い殺されるだけだ!逃げろ!逃げるんだ!あああああ!?!?・・・男性は二組のカップルから逃れられなかった。仲間である僕でも彼を救う事は出来なかった。心無いカップルの「うわあ、残業なんだ…」「今日?ブラック会社なんだ…かわいそ…」「彼女いねえんじゃね?」「汗臭かったぜ」という視線とセリフは、牛丼屋に入ろうとしていた手足に噛み付き、そして胸をえぐった。仕事が忙しく、朝から何も食べていなかった男性は牛丼屋を諦めた。

奴らは彼のささやかな幸せを奪った。彼は手足と胃をもがれたまま、帰宅の徒に付いた。電車の中にも奴らがいる事を忘れたまま…。まだウイルスに侵されず生き残っていた仲間から、ようやく連絡が返って来た。

「今日の会さ、俺、なんかうまく行ってあの子とデートできる様になったからパスで」また一人、仲間が「X-mas Virus」に侵されてしまったようだ…。彼もまたこの街をカップルで虚ろな瞳を浮かべて彷徨うのだろう。オシャレなカフェレストランでVirusチキンを食べて、美味しいスイーツの店でX-mas Virus ケーキを食べながら、プレゼントVirusを交換するのだろう。そして二人で男の自宅へ向かう道中、脳内から大量に分泌される麻薬物質によって男の目玉は飛び出し、ヨダレが止まらないのだろう。そして行われる交尾によって空気中、世界中に「X-mas Virus」が撒布されるのだ。

聖夜の恐ろしさは夜なのだ。壁の薄いアパートやマンションに隠れている、未だ「X-mas Virus」に侵されていない男性は、隣で行われる惨劇の叫び声に震え上がり、涙とか流しながら命を絶つのだ。そう、俺の家もそうなのだ!だから仲間で朝まで飲む事で「X-mas Virus」に侵された隣人の声から逃げようとしたのだ!そうじゃなけりゃ、こんな奴らがぞろぞろ歩き回るこんな街に来るわけがないのだ!しかし、さっきの元・仲間からのメールを最後に、皆からの連絡は途絶えた。奴は皆にCCでメールしていたんだな…。皆、「X-mas Virus」に侵された者どもの餌食となったのだろうか。今、皆が何処で何をしているのか、何も分からない自分がもどかしい。どうか生きていて欲しい。できれば「X-mas Virus」に侵されていないと嬉しい。

さて、俺の作戦も潰えた。この街を一人で抜けて帰宅する事は「死」を意味する。武器も食料も残っていない。でももしかしたら生存者が何処かにいるかもしれない。その子を救い出そう!そうだ!食事に誘おう!そう、この街にもケーキ売りの寂しい少女がいるはずだ!